ryomiyagi
2020/02/27
ryomiyagi
2020/02/27
矢野さん:一応ですね、今日持ってきたんですけど。小説を書くって最初にストーリーを考えるじゃないですか。今回僕が最初にやったのは、これ。(ノートを広げる)
一同:うわ~っ。これはすごい。
矢野さん:最初に地図を描いたり、年表を書いたり。民族とか地名とか。全部こういうのを書いて。菅さんの前の担当の戸井さんという方とやっていたんですけど、まずこれを書いて、次にどこを(小説として)書こうか?と。最初に作るべきストーリーは最後に作られた。まずは土台を。土台だけで1年ぐらいやって、そこから書き始めた。
だから、いつもと作り方が違ったというか。(史実が基ではなく)好きにゼロから書くので歴史の資料が全くない。説得力を持たせるためにどうするか、ということで1000年(の世界)を書こうと。
市川:年表の部分が「歴史」で、作品の部分が「真実」だと思うんですよ。作品を全部読み終わった後に年表を見ると、描かれている部分と描かれていない部分があるじゃないですか。歴史って本当にそうだなと思って。歴史って、語られるものが本当だとは限らない。
年表があることで、メタ的な構造をはらんだうえで「歴史小説とはなにか?」ということを語りかけている作品だなと思います。
金森さん:すいません、私、他社なんですけど……。
市川:急遽参戦!(笑)
金森さん:すごいなって思ったのが、年表を見ると(獲生ではなく)了疾がメインなんですよね。でも、その了疾の敵である獲生の視点で物語を描いているということは、市川さんがおっしゃった「真実」っていうものをね……。
市川:これ、ネタバレじゃないですか?(笑)僕、だいぶ抑えて言ってたんですけど!(笑)
―イエローカードです(笑)
金森さん:あのー、夢中になっちゃいましたね(笑)
菅さん:年表はいわゆる正史ですよね。ネタバレに近づいちゃいますけど、そうじゃない歴史を小説で。いま「真実」という言葉を使いましたけど、そう描いたと。その面白みは他の小説にないものなので、ネタバレに近いんですけど言わせてください。
金森さん:じゃあ、セーフってこと?(笑)
矢野さん:作者からの裏設定なんですけども。源匣記というのはこの後の王朝のことも年表で出てくるのですが、その王朝が100年くらい続いたときに、「『匣』があった時代の歴史を編纂しろ」と命じて源匣記がまとまるんですよ。なので、この作品自体はそれ以降に書かれたもの。源匣記をもとに調査されていくうえで新たなことが出てきたぞ、と。そういう設定になっています。
市川:「日華融合ファンタジー大戦」と帯に書いてあるんですけど、「ファンタジー」の線引きをどう気にされていましたか? これもネタバレになるけど、ゾンビ的な生き物が出てくるけど、魔法は出てこない。歴史小説読みとしてはスッと入ってくるラインですけど。
矢野さん:これはハッキリしたものが1つだけ。真天山の源匣。これだけなんですよ。ここにあるものがすべての不思議な力につながっている。年表にQRコードがあって、900年代のを読み込むと短編が読めるんですけど、ここではそれをかなり使っています。源匣記の「獲生伝」以上に、匣の力がすごいことになっています。空に飛んでたりします。
市川:年表にQRコードがあって、読み込むと新しいお話が読めるって…!
菅さん:しかもこれ、2、3ページとかじゃないですよ。ガチの短編。
菅さん:さっきの匣について。本当にすごいのが、年表で1000年立ち上げるじゃないですか。それで、民族の戦いを、匣の調節の道具として機能的に使っている。
匣によって格差というか、民族の力の差が生まれ、物語のエネルギーの根源として働いている。400ページある分厚い、これだけの世界観をもった作品をちゃんと一冊の物語を終わらせるための、小説のための道具としての「匣」。これはすごい発明だなと。そこに書かれたのは一字の文字。これはちょっと……発明。
一同:(爆笑)
矢野さん:繰り返した(笑)
市川:大事なことですから(笑)
金森さん:とある政治家を思い出しました(笑)
菅さん:そのくらい、エンタメ小説にこれまでなかった道具。年表と同じくらい重要だなと。
市川:登場人物に、熱いキャラクターが多くて。『北斗の拳』のお話でもありましたが、僕は天野純希さんを「歴史小説界のサンデー」と評したんですけど、(こちらは)ジャンプ感がありますよね。
矢野さん:それは自覚しているところです。
市川:戦国時代の武将とかも、「天下を獲る」って自分の人生を考えた時にコスパが悪いと思うんですよ。天下獲ったところで、寝首をかかれるかもしれないし。中流階級くらいで過ごすのが一番いい。
―程よくね。地位もあって、いい女を抱いたり。
市川:でも、天下を獲るって動機付けは自分の中の損得とか利益じゃなくて、男としてどれだけ力を発揮できるかだから。全然違和感がない。むしろ獲生と了疾は本来こうあるべきだろうし、歴史の中にはこういう人たちがたくさんいて、埋もれていった人も当然いて……。すごい熱くなれる作品だなと思いました。
菅さん:クライマックスは、最初にゲームの話もありましたがそういう文脈が好きな人にもたまらない。
市川:たまらない構造ですね。
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