akane
2018/11/01
akane
2018/11/01
市川 あとP135の、啓太の友だち、天才肌の寿ってのがいるんですけど。スリランカに旅行に行くって話をしていたんですけど。
「スリランカどうだった?」って聞かれると「いや、スリランカやめて、タイに行ってた」と。で、「どうだった?タイ」と聞かれたら「どこに行っても同じだと思った」って。僕もどっちかというと「どこに行っても同じだと思う」タイプ。
――天才肌ということですか?(笑)
市川 いやいや。というよりは、自分の心持ちによって見える景色っていくらでも変わるよねって意味で、僕はどこでも同じだって思うんですけど。
椰月さん そういうことですよね。
市川 寿はそう言っているんだろうなって。啓太は逆で「橋がすごい」って色々周ったりしている人。そこに行って何か自分の中で変革がある人もいるけど、実は寿って人も「どこに行っても同じだと思った」と言うんだけど、あんまり発想自体は(啓太と)乖離していないと思うんですよね。
「どこに行っても同じだと思った」というのは多分、自分の心情が変わらないだけで。何かを起点にして変わるかどうかっていうのは、各々の心持ちだから。啓太に関してはどこかに行って変わるタイプであって、寿っていうのはもっと違うソースがあったら、また気持ちが変わっていたのかな。それを見つけて……という感じ。
市川 P160の、啓太が活動している校内案内ツアーのくだりで84歳のおじいちゃんが出てくるんですけど、そのおじいちゃんを見ながら啓太が「この人は戦争を知っているんだなと思った。まだ子どもだっただろうけれど、生身の感覚で戦争を知っているのだ。そう思うと、とたんにありがたい気持ちになった。」
これ、すごいわかるなと思って。戦争を経験している人に会うと、確かにありがたい気持ちになる。
椰月さん そうですよね。どんどん減ってしまっているわけだし。
――自分もこのシーンは好きで、「大げさかもしれないけれど、善く生きていけるような気がするのだった。」と啓太が思うのはすごく良いなと思いましたね。
椰月さん 私も「善く」生きていたいって毎朝、神棚に宣言しています。なかなかそうはいかないですね。今朝も子どもをどなりちらして、蹴り飛ばしながら学校に行かせました(笑)
――それも「善く」生きるための過程ということで……(笑)
椰月さん 朝になって持ち物が必要だとか言い出すんですよ。いい加減にしてくれ!って。
――子どもはそうですね。いきなりプリント出してきたり。
市川 僕もどちらかといえば、そっち側の子どもだったんで……(苦笑)
椰月さん、Twitterで「子どもが夏休みの宿題をしない」ってツイートしているのを見ました……(笑)
椰月さん 8月31日とかに本当にしているんですよ。
市川 僕、31日にするタイプだったんで。
――僕は下手すると9月の提出日の直前とかにやっていましたね。「算数の最初の授業は木曜日だから、水曜日までにやればいいや」と。
椰月さん 本当ですか?信じられないんですけど!?気になって気になって仕方なくないですか?
市川 気になっているんだけど、朝になったらタッチを見なきゃいけないし、仮面ライダーV3も見なきゃいけないから……。
椰月さん そうですか~。私は根が真面目なので、どんどんやりますね。
市川 2つをどうザッピングして見るかを考えるうちに、夏休みの朝は終わっていました。
――その間に宿題のことは忘れていると(笑)
――ちょっとページが戻ってしまうのですが、自分の好きなところがあって。P155の間島くんのセリフ。間島くんは真亜子さんという先輩に恋をしていたんですけど、そのくだりがすごい好きで。
真亜子先輩と、とある女性がすごい仲が良いと。その評価で「互いに、思いやりをフル稼働して接してんのが見てとれるんや。明日死ぬんやないかっちゅうぐらいの、フルスロットルの思いやりなんや。互いに好き合ってんのがダダ漏れなんや」と。それを見て間島君は「美しかった」と言う。
これは、この間島くんだから喋れるセリフなんだろうなと。彼だから「フルスロットルの思いやり」と言える。この言葉、良いですよね。本当に「フルスロットル」なんだろうなと伝わってきて。それを「美しい」と言える間島君もまた。彼は小説家を目指しているキャラなんですけど、そういうところも相まって。
市川 みんな間島くん好きですよね。
椰月さん 私も大好きですね。とても良い、本当に。
市川 絶対いてほしい。
――友だちに一番なりたいタイプですね。
市川 これ、年末のカウントダウンなんですけど、P201の「一分前になり、スクリーンに秒数が映し出された。時間というのは不思議だ。どんどん先へ、この先の未来へと進んでいくように思えるけれど、それは人間の感覚から見た場合に限ってではないだろうか。」って。
ちょうどこの年頃なんかは、大人になる感覚というか時間が経過していく、未来に向かっていく感覚って不思議な心持ちになったなと思って。
34歳から35歳になるのってそんなに大したことないけど(笑)、18歳から20歳、21歳になるのってすごい不思議な感覚じゃないですか。
椰月さん そうですね。今よりもっと敏感に色々なものを感じ取っていた気がします。
――不思議な感覚ですね。現在進行形で青春、子どもから大人になるプロセスを経ていることを自分の中でも理解しているつもりだけれど、あまり実感がわかない気持ちもあって。でもこれが「時間が進む」ということなんだろう、という感じもあって。本当に不思議な感覚。それはもしかして、同級生がいっぱいいる環境だったりすることで変わってくるのかも。
市川 時間の連なりって不思議だなあ、と思いながらその時代を送っていた。
―――あと全然関係ないですけど、このページに出てくる「ラブ先輩」が最高なんですよね。
椰月さん ラブ先輩ね~。私も好きです。
――すごく変わった人で、寮長なんですけど。この人とも友だちになりたい。
市川 ラブ先輩って達観してますよね。でも、ヲタ芸するじゃないですか。そのバランス感覚ってすごいと思うんですよ。世俗にまみれながら達観する。
――キリストじゃないけど、ものすごい俗にまみれているからこそ聖性があるという。
市川 あ、これで最後かな。P306、「おれたちの架け橋」の方。
「いや、ほんと。人生ってすげえ退屈に感じるときもあるけど、かりそめみたいに思うときもある。知りたいことがたくさんありすぎて、あきらめたくなる。間に合わないって思いにとりつかれると、逃げ出したくなる。」ってまた、(啓太の)友だちの寿が言うんですけど。めっちゃ感動しました。
――P306って最後の最後くらいのページですけど、寿という人のキャラクターや言動、彼にまつわるエピソードを踏まえて読むと、違う印象を抱く。
市川 このキャラクターの本質的な部分が集約されていると思う。この人はこういう人なんだなっていうのが、これでわかるというか。その前のくだりはネタバレになっちゃうんで、言えないですけど。
――こういうことを言いそうな人だな、と思わせるエピソードがある。なんか、ロックスターみたいですね。
市川 すごい共感できる。
――読むとそれぞれに好きな人物、好きなエピソードが出てくるのが面白いですね。
市川 みんな活き活きとしているというか。
椰月さん 本当にこの北の大地、北海道大学なんですけど、行った時に、色んなものが色濃くて。
あ、ひとついいですか?取材でキャンパスツアーに参加させてもらったんですけど、この本の啓太みたいに出てきた案内人が、なんと小田原出身!信じられないと思って。「僕小田原なんです」って。
その学生さんにコンタクトを取って取材させていただいたんですけど、なんか縁がある。彼が言っていたのが「本当に北海道は色が濃い」。すごく印象に残っていて、そこからこの小説を書き始めました。
――最後にすごいエピソードを。
椰月さん まさか小田原。信じられないです本当に。運命を感じました。素晴らしい小説になると思いましたね、その瞬間に。
――ある意味、彼が作者の一人。
椰月さん 本当にそうです。
――そういうところから物語ができていくって、すごく面白いですね。
――では最後に椰月さんから、『緑のなかで』をまだ読んでいない方へ向けてメッセージを。
椰月さん 大学3年生の啓太が主人公の話なんですけど、寮生活をして友だちと過ごして喜びや悲しみや苦悩を感じる。「青春の光と影」っていう感じですかね。ぜひ読んでほしいと思います。とても素晴らしい小説に仕上がりました。
――その通りです。本当にすごいです。
市川 ということで、本日は椰月美智子さんをお呼びしてぼんくRADIOをお送りしました。ありがとうございました!
椰月さん ありがとうございました!
椰月美智子さんの新刊『緑のなかで』は大好評発売中です!皆さんもぜひお手に取って読んでみてください。椰月さん、本当にありがとうございました。
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