akane
2019/01/30
akane
2019/01/30
「なんだかお化け屋敷みたいなレストランですね」と、おとよ。お化け屋敷と言えば、知人のKが以前にこんな経験をしたんですよ。
お化け屋敷イベントの帰りの電車でのことです。Kのちょうど斜め前の席に浴衣姿の女性が掛けていたんです。
見覚えがあるんですが、名前が思い出せません。ごく最近知り合った女性のような気がするのですが、誰なのか、分からなかったそうです。
考えているうちに最寄り駅に着いたので、Kは電車を降りました。すると、その女性も同じ駅で降りたんです。
自宅へ向かう道を歩き出すと、女性もKの後ろを歩いてくるじゃないですか。Kは近所に住んでいる人なのかと思って、振り返って見ました。
すると、その女性は何やらただならぬ雰囲気で、Kを睨みつけたんです。Kはドキリとしたそうです。
Kはその女性から離れようと、早めのペースで歩き始めました。しかし、その女性のことがどうにも気になって、もう一度振り返って見たんです。
すると少し距離が離れたため、浴衣の裾の方に描かれた大きな蝶の柄が見えました。印象的なその柄で、Kは気が付きました。お化け屋敷イベントの入り口で、すれ違った女性だった、と。
偶然、同じイベントに参加しただけの女性だと判明したんですが、今度は女性の睨むような目つきが気になります。誰かと人違いをされているのか。あるいは、怪しい男だと思われているのか、と。
Kがそんなことを考えながら再び歩いていると、女性のカタカタカタという下駄の音が、突然早くなったんです。音はどんどん近づいてきて、Kのすぐ後ろまで迫ってきました。Kは思わず女性を振り返りました。
ところが、そこには誰もいなかったんです。
お化け屋敷イベントという作り物の会場で、本物を拾ってしまったのだろうかと、Kはぞっとしたわけです。
すると、私の話を打ち切るかのように警報音が鳴りました。いよいよモンスターたちのショータイムの始まりです。
あちらこちらから囚人(お客)たちの悲鳴が聞こえてきます。女性の甲高い声に、男性の野太い声も混じっていて……。どんなモンスターたちが暴れているんでしょうか。声だけで正体が見えないので、余計に恐怖心が増幅されていきます。
すると、「いま、私たちの監獄の前をモノトーンのピエロが横切りましたよ」と興奮気味のおとよ。そう、監獄のドアは鉄格子になっているので、中から外の廊下が見えるんです。
しばらくすると、赤いフードとマントを身に着けたモンスターが「ガラガラッッ! ガシャャン!」とわざと大きな音を立てて、監獄のドアを開けました。その大きな音に、皆、思わずビクッとしてしまいます。
私たちの監獄に侵入したモンスターは、おとよに襲いかかります。すると、おとよ、「あ、あっちの美女のほうが美味しそうですよ」と緑を指差します。おとよ、なんて卑怯なんですか!
「ち、違います。泣き美女とモンスターのツーショットが撮れる絶好のチャンスだと思いまして」とおとよ。
すると、モンスターにも私たちの意図が伝わったのか、くるりと標的を変えて緑へ。緑は「ギャー――――」と絶叫して涙目……。
シャッターチャンス! そう張り切ったのですが、なぜか突然、買ったばかりのカメラが動かくなってしまいました。暗闇での操作に、まだ慣れてないからでしょうか。それとも呪いでしょうか。泣けてきます。
「ここは、私のカメラで!」とおとよの激しいフラッシュ攻撃が始まりました。モンスターはおとよに恐れをなして、別の標的を求めて退散。モンスターに襲われる寸前の緑は、間一髪、救われることに……。
ホッとしていると、別のモンスターが天井から顔を覗かせているじゃないですか。「うぎゃーーー!」とモンスターを指さして、大騒ぎのおとよ。
しばらくすると、特殊部隊がモンスターを退治したとのアナウンスが流れ、騒動は収束。これで一安心です。
「久しぶりに涙を流しながら絶叫して、すっきりしました」と笑みが戻る緑。
けれど、作り物の中に本物が潜んでいることも。モンスターが今夜、家までついてくるかもしれませんけどね。
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