akane
2019/06/12
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2019/06/12
前回のコラムでは、共和党下院議員(南部サウスカロライナ州選出)だったボブ・イングリスさんが2010年の選挙の前に、地球温暖化を疑うことをやめた話を紹介しました。イングリスさんは、共和党の候補者を決める予備選挙で新人に敗れます。予備選で敗れれば共和党の候補として戦うことはできず、議員への道は事実上、たたれることになります。現職が予備選で敗れるのは異例のことで、落選の一因は、イングリスさんが地球温暖化対策に乗り出したことだとされました。
2010年の予備選で落選したイングリスさんの言葉を聞きましょう。
「地球温暖化を認めたことで、私は共和党という部族(tribe)のなかで異端の存在になってしまった。2010年は(リーマンショック後の)世界的な経済危機のなか、人々はそれぞれが属する部族により忠誠を尽くすようになっていた。厳しい時だからこそ、グループのみんながまとまって乗りきろうとしていた。そんな時に、民主党と歩調を合わせる主張をしたことは、裏切り者と見なされた」
イングリスさんが使った「部族(tribe)」という言葉は、直接的で生々しく私には聞こえました。政党のメンバーがお互いに強い絆で結び付き、まるで「部族」のような集団になっているのが、アメリカの政治の現状です。
以前、このコラムでも触れましたが、私たちの脳に、狩猟採集をしていた石器時代の心が宿り、いまも「部族」を大事にしているということでしょうか。
さて、裏切り者となったイングリスさんを排除するため、石油業界などは保守系の政治資金団体を通じて選挙資金を投入し、地球温暖化を疑う対立候補を予備選で支援します。つまり、共和党の候補は温暖化を疑う人でなければならないという発想です。
2012年の上院議員選挙では、やはり温暖化対策の重要性を主張していた共和党の現職、リチャード・ルーガー氏が、インディアナ州の共和党上院議員候補を決める予備選で新人候補に敗れています。
インタビューに応じてくれたルーガー氏は当時のことを次のように振り返りました。
「地球温暖化への態度がすべてではないが、それが一つの要因で州外から膨大な選挙資金が流れ込み、私のネガティブ・キャンペーンにつながった。共和党議員でいる限り、地球温暖化を認めることが難しい現状になっている」
共和党議員の間では、こうした攻撃を避けるために地球温暖化について語るのを避ける傾向が広がっているようです。
2018年6月20日付の米紙ニューヨーク・タイムズは「地球温暖化を認める共和党議員は、石油業界などが強力に支える新人候補からの挑戦を受け、予備選で敗北するリスクにさらされることになる」と指摘しています。
民主党と戦う前に、身内から狙われるのです。
※本稿は、三井誠『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。
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