広告を作る時に「中2でもわかる表現」が基準となるワケ
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ryomiyagi

2019/12/11

 

「差別化」がマーケティングの常識と言われるこの時代に、なぜ通販会社はあえて似たような広告を作るのか。答えはもちろん、「勝ちパターン」があるから。本書では、その「勝ちパターン」のための『7つの鉄板法則』を、東京大学大学院の心理学者の監修の元、解き明かす。

 

※本稿は、香川勝行・妹尾武治・分部利紘『売れる広告 7つの法則』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

通販広告は、中学2年生でも分かる内容でなければダメ!

 

■分かりやすい表現を作るコツ「換算表現」とは

 

通販広告はしっかりと伝わらないと意味がない。だからこそ、携わる人間は広告内の表現がちゃんと伝わるかどうかに細心の注意を払っています。1つ1つの文言が相手に分かる表現になっているか。分かりにくくて読むのが面倒と思われないか。そんなことを関わる人間すべてがチェックすることで、成果の出る広告が生み出されるわけです。

 

そのような広告表現のチェックポイントの1つとして、代々言い継がれた「表現のレベル」に関する格言があります。それが『中学2年生が分かる内容になっているか』という点。人によっては、「ゴロ寝したおじいちゃんおばあちゃんがせんべいを食べながらでも分かる内容」とか、「カタカナ用語を使わない文章」とか、場合によっては「考えなくても理解できる内容」などの言い方をされることもあります。が、総じて言えるのは、とにかく予備知識がなくてもスラスラと頭に入ってくることを意識せよ、という話です。

 

とは言え一方で、通販広告で取り扱われる商材は、スキンケアや健康食品、美容機器など、特徴を伝えるためには専門的な情報や機能に触れざるを得ないものが多いのも事実。ゆえにどうしても、しっかり伝えようとすればするほど、おのずと中学2年生では分からないような専門的な話(例えば肌のメカニズムなど)になってしまいがちです。

 

そんな課題を通販広告の制作者たちはどうやって乗り越えているのか。そこには、難しい情報を分かりやすく料理するために編み出された、いくつかの方法論がありました。

 

代表的なのが、皆さんもよく目にすることがある「レモン10個分のビタミンC」や、「ヨーグルト50杯分の乳酸菌」のような換算表現。これは通販以外でも、例えば「東京ドーム100個分の広大な敷地」のように世の中のありとあらゆる場面で使われています。

 

そしてもう1つが「うるツヤ肌」「スーッと浸透」「朝からシャキーン」などの擬音・擬態表現。これらは、商品の効果や機能を伝える映像と相まって、全体的に効果を印象付けたい場面で使われることが多いものです。

 

■中2レベルの表現がもたらした印象度の差とは

 

換算表現が果たして本当に広告の効果を高めているのか。私たちは、換算表現を多用した調査用のオリジナルテレビショッピング番組を制作。その反応を『お買い物心電図』で具体的に検証してみることにしました。

 

オリジナルの番組に用いたのは、約100mgのビタミンE、約5mgのビタミンB1とB6、約5000mgの食物繊維を一度に摂れるサプリメント。この栄養素の量は、サプリメントだけで摂れるのであれば十分に魅力的な量となります。

 

そこでこの番組では、その価値を分かりやすく伝えるために、「ホウレンソウ約150株分のビタミンE」「グリーンピース約1kg分のビタミンB1」「めざし約80匹分のビタミンB6」「レタス約1個分の食物繊維」という複数の換算表現を開発し、実際にその量の食材(ホウレンソウであれば150株)の映像を使いながら、この商品の魅力を伝えることにしました。

 

この番組の1ロール分の反応を、30秒単位の波形で表したのが図1です。

 

(注)CTA=「購買を煽る売り込みパートのこと」

 

見ての通り、「ホウレンソウ約150株分のビタミンE」等の表現を採用した3分〜3分30秒地点で、「いいね」が最高値を示しているのが分かります。

 

ちなみにそのちょっと前の2分〜2分30秒地点でも「いいね」のヤマがありますが、ここは商品が初めて紹介されたシーンで、ここでは栄養素の量は言わず、ビタミンE、B1、B6、食物繊維が1つで摂れることのみを紹介していました。すなわち、単に複数の栄養素が摂れることを伝えたシーンよりも、その量がたっぷりであると換算表現で伝えたシーンのほうが、視聴者からポジティブに受け止められたということです。

 

では、仮にこの部分が換算表現でなかったら、視聴者の受け止め方は変わるのでしょうか。

 

そこで私たちは、「ビタミンE約100mg」のように、紹介した4つの成分量を換算せず、そのままの数値で伝える映像(以下『換算表現なし版』と呼びます)も作ってみました。それに合わせ、例えばホウレンソウであれば1株のみの映像を使うなど、素材の量を映像で見せる演出もやめています。果たしてその反応はどのように変わったのでしょうか(なお、諸事情がありこの映像はBGMやナレーターまで変わってしまったため、そっくりそのまま比較できるものではないかもしれません)。

 

図2が『換算表現なし版』の30秒ごとの反応データ。比較しやすいようにオリジナルの映像(以下『換算表現あり版』と呼びます)の反応データも、スケールをそろえたうえで並べて表示しておきました。

 

 

全体の反応は似通った形となっていますが、注目すべきは3分〜3分30秒の換算表現をやめたブロック。換算表現を採用していた時よりも「いいね」の反応が低下し、2分〜2分30秒の商品初紹介時の反応を下回る結果となっています。番組後半のCTA部分での「いいね」のヤマも低く、全体的に商品に対する盛り上がりを欠いていることも見受けられます。

 

さらに今回は、それぞれの映像を見た人にアンケート調査も行いました。まず質問したのがこの商品の栄養価に関するもの。具体的には「この商品で、どの栄養素がたくさん摂れると思うか」という質問(複数回答可)をしたのですが、その結果が図3です。

 

 

ビタミンB1を除くと、『換算表現あり版』の映像を見た人のほうが軒並み各栄養素を多く摂れると評価しているのが分かります。加えて、『換算表現あり版』を見た人は、ダミーの選択肢として入れた鉄分やβカロテン、ビタミンCという番組内で紹介されていない成分に対しても高評価をしているという、面白い結果も見られました。

 

続いて、それぞれの映像を見た人に「商品に興味を持ったか」を聞いた結果が、図4です。

 

 

興味を持ったと回答した人の割合で言うと、どちらも64%。ですが、差が表れたのはその理由に関してでした。それぞれの映像で興味を持った人に、その理由を聞いた結果が、図5です。

 

 

換算表現がある場合もない場合も興味を持った理由の上位3つは同じで、順に「野菜不足が補えそう」「栄養バランスの偏りが解消できそう」「1つのサプリでいろいろな種類の栄養が摂れる」でした。

 

が、注目すべきはその理由の選択率。『換算表現あり版』を見た人は、『換算表現なし版』を見た人よりも、軒並み選択率が高くなっています。つまり、換算表現を使うことで、こちらがしっかりと理解してもらいたい点(商品特徴)についてより深く理解してもらえたということです。最初に聞いた「どの栄養素がたくさん摂れると思うか」の回答傾向も踏まえると、換算表現を見たことで、個別の成分はもちろん、全体としても栄養豊富なサプリメントという印象が形成された、ということを示す結果だと言えるでしょう。

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