ソフトウェア開発現場の「デスマーチ」こうして起きる!
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『写真:AFLO』

 

それは「地獄」でもあり「悦楽」でもあった……ソフトウェア開発の現場で起きる「デスマーチ」。

 

『デスマーチはなぜなくならないのか~IT化時代の社会問題として考える~』(光文社新書)を刊行した宮地弘子氏が「ブラック」では片付けられない現場の真実(リアル)に迫ります!

 

 

ソフトウェアの試験を専門とするエンジニアとして採用されたBさんは、新卒者を対象とした研修を終えたのち、ある小規模なプロジェクトチームに配属されることになりました。

 

Bさんと同じ試験を担当するエンジニアは、経験10年以上のベテラン寺田氏と、2年目の若手である小島氏(いずれも仮名)の2人でした。

 

そこに新人のBさんが加わり、ベテラン1人・若手2人という構成になった関係上、このチームの試験に関する作業は、一旦ベテランの寺田氏のもとに集約され、そこから、小島氏とBさんに割り振られることになったといいます。

 

Bさんは、寺田氏のことを「事実上の上司」であったと回想しています。

 

配属初日、チームのメンバーへの挨拶や、仕事の道具となるコンピュータのセットアップを済ませたBさんは、翌日から、試験担当のエンジニアとしての仕事を開始することになりました。そして早速、驚くべき出来事を経験することになったというのです。

 

B:「バグあげろ」。入ってきて次の日に、「バグをとにかくあげろ」〔と、寺田氏にいわれた〕。……とにかくあげろってのは意味分かんないじゃないですか。どういうのがバグか、どういうのがバグじゃないのか判断できないうちにあげろっていわれても……マニュアルなりトレーニングプログラムがないうちに、とにかくやれ。先に何かしらちょっとしたトレーニングがあって、はじめてできることじゃないですか。何もなしにできる、普通はあり得ない。

 

試験を担当するエンジニアの仕事は、プログラミング担当のエンジニアが書きあげたソースコードを実際に動かしながら、そのバグを洗い出すことです。Bさんは、何がバグで何がバグでないかということすら分からない新卒の新人であり、まずは、「事実上の上司」である寺田氏から、何らかの教育や指導があることを期待していたといいます。

 

ところが、Bさんが実際に寺田氏から投げかけられたのは、「バグをとにかくあげろ」というただ一言であったというのです。

 

寺田氏に対して、その指示の「おかしさ」を何度も訴えたというBさんですが、そのたびに寺田氏から返ってきたのは、「いいからやれ」という言葉だけだったといいます。

 

さらに、当時の経験を生々しく追体験する語りは、途絶えることなく続いていきます。

 

B:寺田さんより毎日早く帰ってたら、「俺より遅く来て早く帰るって何?」〔と、寺田氏がいった〕。ちょっとちょっと、違うでしょ。あなたがただ単に遅いからでしょ。早く来て遅くまでいるのは、あなたの自由。……「何考えてんの?」ってフレーズから入って、「俺より遅く来て早く帰る」。意味分かんない。

 

この日、Bさんが寺田氏より遅く出社し、早く退社しようとしたのは事実です。しかし、X社のエンジニアの出退社時間は、就業規則上、個々人の裁量に委ねられているのでした。Bさんは、寺田氏がなぜそのような言葉を投げかけるのか、まったく「意味が分からなかった」ことを強調しています。

 

そうして、BさんがX社のソフトウェア開発現場に足を踏み入れてから半年が経とうとしていた頃、ある「事件」が起こりました。同じチームで同じ試験を担当する先輩の小島氏が、退職することになったのです。

 

自己都合で退職した小島氏ですが、その原因となったのは、いわゆる燃え尽きだったといいます。

 

B:全部調べて、やって。〔小島氏が寺田氏から〕急に割り振られて。何で、何からしたらいいの? 指導もなしにそのフィールドにぽいって置かれる。それは、やっぱり本人にとって、何だ、消化できないと思うんですよ。

 

当時、Bさんは、製品の試験に関わる別の作業を担当していました。Bさんは、出退社時間について寺田氏から「文句」をいわれずにすむよう、寺田氏より毎朝少しだけ早く出勤し、たとえ寺田氏が深夜まで居残ろうとも、一定の時間になると、こなしきれない仕事を寺田氏に突き返して帰宅していたといいます。

 

そして、Bさんが突き返した仕事は、そのまま寺田氏から小島氏に割り振られ、小島氏は、自分自身の仕事ですでに手一杯な状態であるにもかかわらず、Bさんが突き返した分の仕事を、決して「できない」といわずに引き受け続けたというのです。

 

小島氏が退職を申し出たのは、それから数ヶ月後のことでした。

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デスマーチはなぜなくならないのか

デスマーチはなぜなくならないのかIT化時代の社会問題として考える

宮地弘子(みやじひろこ)

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