2020/08/06
るな 元書店員の書評ライター
『本の「使い方」』KADOKAWA
出口治明/著
毎日新刊は数百冊発売されるが、リアル書店は年々街から消えていき、わざわざ足を運ばなければならなくなった。
めんどくさいからとネットで探そうにも、GoogleやAmazonには、過去の自分の検索からはじき出された本しかおすすめされず、友達やご近所や家族は皆、類友で似たような価値観の人。
自力で今まで出会ったことのない価値観 に出会うには、わざわざと遠い場所、9割興味のない本がある書店に行かなければならなくなった。
身近にある1冊の本で、興味のないところからあるところに至る思考の過程や、面白さとは何なのかと考えることの面白さを知ることができるが、そこに価値がある。と思える人はいかほどなんだろう。
巷に溢れる読書術、本の読み方の本。こんなものがなければ人は読書の価値に気づけなくなったのか、人間の思考力は、マンガでわかる!誰でもすぐ出来る!みたいな簡単な本じゃないとわからないほど低下してしまったのだろうか。
そうじゃないだろう、私たちはそんなに単純で浅い思考の人間ではないはずだ。
まだテレビやネットが普及していなかった頃、読書は娯楽であって、知識と知恵、情報の塊だった。
今もそれは変わらない。
変わったのは人間の方で、それをどう使ったらいいかわからなくなってしまった。
数百年前から現代に残る古典は、古文のテストのためのダルい科目ではなく、人類にとっての「正解」だ。
ダルくしたのは人間の方で、もっと考えろ、想像力を働かせろと言われても、考え方すらわからなくなってしまった。
AIを作れても難しいゲームをクリアできても、生きる意味に自分なりの正解を出せず、苦しさから自らを解放できなければ、それは進化ではなく退化ではないのか。
書店員をしている間に、そう思うようになった。しかしこの感覚を伝える術を私は持たない。
だから本に頼る。それが本書だ。
山のようにある本をどう選ぶのか、読み方は?どうやって楽しさを見つけるの?という疑問に、稀代の読書家が余すところなく答えてくれる。
それらを知っている人にとって本書は、自分の信念の正しさを太くする本で、知らない人には新しい価値感との出会いの本。
知っているからつまらない、知らないからつまらない、なんてことはないと思う。
どんなにくだらなくてつまらない本からも、本当の意味での面白さを学ぶことができる。
この世にある全ての本は、自分の生涯を共にするか、かりそめの時間を共にするかのどちらかで、無駄な本など1冊もない。
それに読まなければ無駄かどうかなんてわからない。そしてその問いかけには、自分の内側を知らなければ答えられないのだ。
読書は他者の考え、存在を知ると同時に、自分自身の内側へ向かう貴重な存在。
読んできた本と私は、見えない細い糸で繋がれていて思考や感情を形作る。
物言わぬ彼らは、主が手放さない限り静かにずっと見守り続ける。
いや、手放せないのだ。
読んできた本で私は出来ているから。
人生の傍にはいつも本があった。これまでもこれからも。
悩み苦しみながら読んだ本、泣きながら読んだ本、爆笑した本、全ての本とそれらを読んできた時間に想いを馳せて、感謝しながら読みたい本。
『本の「使い方」』KADOKAWA
出口治明/著