給食は未来に命をつなぐプロジェクト|藤原辰史『給食の歴史』

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『給食の歴史』岩波新書 
藤原辰史/ 著 

 

日本の学校に通ったことがある人は生活の一コマとして昼の給食の光景を思い出す人も多いだろう。楽しい思い出がある一方で、苦痛だった人もいる。昭和40年代後半に小学校に入学した筆者も最初の給食は鮮明に覚えている。クジラ肉のコロッケ、コッペパン、マーガリン、牛乳だった。それまで家で食事をしていた子どもが初めて学校の食事をする機会である。著者も記すように、給食は「親ではない大人と、兄弟姉妹ではない子どもと食べる空間」である。筆者は正直、とてもおいしいと思った。小学校を2回転校したが、高学年になるにつれて、さほどおいしくない給食の日もあるなと、生意気ながらだんだん気付いてきたことも懐かしい。

 

本書は給食の歴史についてまとめた。著者は給食の条件として、「家族以外の人びとと、貧富の差を棚上げして、食品産業のビジネスの場で、不思議な雰囲気を醸し出しつつ、同じ時間に同じ場所で同じものを子どもたちが一緒に食べる」と規定する。そのうえで、給食を、子どもの貧困対策や災害との関係、運動史や教育史、世界現代史の視点でとらえている。

 

ひとくちに給食といってもその内容は時代によってまったく異なる。戦後に限っても、脱脂粉乳が牛乳になり、パン食中心だった給食に一部、米飯給食が導入されるようになる。地域によってはご当地産品を使った豪華な給食もある。ある年齢以上の世代で脱脂粉乳が本当にまずかったという記憶を語る人も多い。

 

このように給食は時代や社会の影響を受けてきた。特に戦後は、子どもの栄養不足解消や体位向上が重要とされた。育ちざかりの子どもの成長を支える一方、アメリカの余剰農産物の市場開拓や、日本人の食生活の変化にもつながった。

 

学校給食が発展し定着した後も、様々な動きや課題が焦点となった。センター調理方式への不満や、先割れスプーンをめぐる論争、無味乾燥なアルミ食器、食中毒、添加物問題など、現在につながる問題がクローズアップされている。

 

子供の貧困が社会問題になる中、給食が一日のうちで一番充実した食事である子も現代の世にまだいる。給食がこどもの健康と命を支える存在になっている現実が足元にある。課題はまだ残るが、関係者の努力で、給食の質は改善されており、かつては考えられなかったほど充実した給食も登場しているという。

 

食べ物についての記憶は長く残る。食事が人間の意識に働きかける力は大きく、それ故に給食は今も昔も学校生活の大切な時間となっている。本書は多くの史料を読み込み、広範に取材した力作であり、わが国の学校給食の詳細な歴史が詰まっている。

 


『給食の歴史』岩波新書 
藤原辰史/ 著 

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ビジネス・経済分野を中心にジャーナリスト活動を続けるかたわら、ライフワークとして書評執筆に取り組んでいる。英国の駐在経験で人生と視野が大きく広がった。政治・経済・国際分野のほか、メディア、音楽などにも関心があり、英書翻訳も手がける。

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