西上心太が読む『連鎖』リアルな捜査過程の描写が圧巻!

小説宝石 

『連鎖』中央公論新社
黒川博行/著

 

食品卸会社を経営する篠原紀昭が失踪したと妻の真須美から届け出があった。経営はあまり順調ではなく、一度目の不渡りを出した直後であり、闇金業者からも脅されていたという。自殺の恐れがあるということで特異行方不明者として書類を受理。京橋署暴犯係の刑事・上坂勤と礒野次郎は、応対したいきさつもあって捜査を担当するが、翌日になって高速道路に駐められた車の中から、篠原の服毒死体が発見される。

 

『落英』、『桃源』に登場した小肥り痛風持ちの映画オタク刑事、上坂勤が三度登場する警察捜査小説である。相棒の悪事のとばっちりで府警本部から所轄署へ左遷。そこで手柄を立てて準A級署である京橋署に異動、というのが上坂のこれまでの経緯である。作品ごとに相棒が代わっていく趣向だろう。

 

二人は事件の背後に手形のパクリ屋など反社会的勢力が関係していることを知る。そして足で稼ぐ地道な聞き込みと、Nシステムなどハイテク捜査の両面を駆使して、失踪から死体発見までの篠原の足取りを追い、空白の時間を埋めて、ついに自殺説が濃厚だった見立てをひっくり返す。このリアルな捜査過程の描写が圧巻。

 

さらに当然のことながら、二人の会話が抜群に楽しい。新たな相棒の礒野は、上坂の二歳上の三十八歳バツイチの麻雀好き。互いに同じ巡査部長なので遠慮がない。コンビを組んで間もないが、礒野は上坂の刑事としてのセンスを見抜いている。二人は退勤後には酒を飲み徹夜麻雀に勤しみ、翌日には寝不足を後悔しながら、手抜きすることなく捜査に邁進する。悪徳警官ではないバディ物は、初期の大阪府警シリーズと通底する味わいがある。最近こちらも復刊されたので、あわせて読むのも一興だ。

 

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『骨灰』KADOKAWA
冲方丁/著

 

著者初のホラー長編

 

渋谷の高層ビル建築現場の地下深くに謎めいた祭祀場があり、しかも人が繋がれているのを、大手デベロッパーの社員・松永は発見する。ひりついた空気に、骨を燃やしたような異臭。直後に火災が起き、助けた男は姿を消す。そして松永の身に次々と異変が……。

 

東京のアスファルトに覆われた土地の下には、無数の骨灰が埋もれている。その鎮魂行を描いた小沢信男『東京骨灰紀行』を思い出した。空を突く高層ビルの足元深くに広がる地下世界。骨灰が交じり穢れと清めが拮抗する東京という土地と分かち難い恐怖が味わえる。

 

『連鎖』中央公論新社
黒川博行/著

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-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本がすき。」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

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