2018/09/20
横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店
『おまじない』筑摩書房
西加奈子/著
子どもの頃、些細なことにたくさん傷付いていたなぁと思う。小さな体とやわらかい心は、良いことも悪いこともぐんぐん吸収してしまう。そういう時期だったのだと思うこともあるけれど「おいおい、あの傷、まだこんなにグジュグジュじゃん」と気づいてしまって、震えるような心持ちがしたりもする。傷付いた心はなかなか元に戻らないと、もう知っている。
『おまじない』は8編からなる短編集で「傷付いた心を持つ少女、あるいは女性」が描かれている。いや、もっと正確に伝えたい。多分とても大切なことだから。
主人公たちは「傷付いた心を持ったまま大人になった女の子たち」だ。
「燃える」では、本当は「可愛い」ことを自覚していて、「可愛く」ありたい女の子が、男性から性被害を受ける。でも、本当に傷付いたのはお母さんから言われた「ほらね!」という言葉だった。「ほら、やっぱり女の子らしくしたいなんて、言わんこっちゃない」。「ほらね」につまったお母さんの本音。
お母さん私可愛くしちゃいけないの?私、女の子なんだよ。私は本音をしまうことしかできなくなった。
ある日の授業中、用務員のおじさんの存在にふと気が付いた私。おじさんはいつもいつも何かを燃やしていた。お母さんとは違う「燃やし方」をする人。
「何か燃やしたいものはないですか?」
おじさんに聞かれて、やっと言えた本当の気持ち。
「私が悪いを燃やしたい」「私が可愛いを燃やしたい」
私は「傷付いた心を燃やしたい」。
でも、本当に燃やしたいものは、燃やせない。それは、自分の中心にどっしり居座る「こころ」だから。グジュグジュになった部分だけ取り出して、燃やすことはできない。
その他の章でも、モデルになったけれど本当は自分なんてからっぽなんだ、と気が付いている女の子。家族の各役割を演じるとおじいちゃんと絆を固くした女の子。お笑い担当を自ら演じ傷付かないように生きている女の子。想定外の妊娠をして、立派な母親にならなきゃ、でも、私はわたしのままでいい、と気づいた女の子。ありとあらゆる過去に、今に、傷付いた女の子たちが登場する。
各物語には必ず救いがある。それは、「可愛い女の子の私にはやっぱり白馬の王子様が迎えに来て」という夢物語のような救いではない。
過去の出来事によって、傷つけられた心を救ってくれる人がいること。何気ない一言に、強張っていた心がほぐれ、許されたと感じること。そして何より「あなたは可愛い女の子のままでいいよ」と何度もなんども言ってくれる声が、ページの中から聞こえた。
私は、この物語を読みながら「私自身」の傷が立ち現われ、すうっと風にとけていくのを感じた。少女の頃のように、屈託なく笑う私を悲しくてわんわん泣いちゃう私を「もう忘れないよ」って抱きしめたくなった。
西さんがかけてくれたおまじないは、女の子に抜群に効く。
『おまじない』筑摩書房
西加奈子/著