akane
2019/04/15
akane
2019/04/15
市川:今回は歴史小説について園原さんとお話ししたいと思います。司馬遼太郎以降は特に、俗にいうビジネスパーソンを中心に自己啓発書的に読み継がれてきた気がしていて。
園原:(ビジネスパーソンが)通る道ですよね。
市川:司馬作品の中では坂本竜馬の『竜馬がゆく』とか、日露戦争を描いた『坂の上の雲』とか。僕はこの二つが司馬作品を象徴しているなと。実際、棚の回転もダントツで良いんですけど。で、こういう作品を90年代なら上司が新入社員に向かって「お前、これは読んでおけよ」とオススメ姿があったと思うんです。
園原:ありますね。司馬さんで最初に手に取るのがその二作という方は多いですしね。
市川:絶対に『竜馬がゆく』を最初に読むみたいなのはあるじゃないですか。で、今でいうと例えば宮城谷昌光さん。それこそこの間、文春文庫で『劉邦』が出たんですけど、初刷りの中に「ビジネスに効く劉邦の言葉」みたいな冊子が入っていて、まさにこんな感じだなと思って。
園原:ビジネスマン必読。
市川:あとは童門冬二さんの『上杉鷹山』とか。童門さんなんかは歴史にまつわるリーダー論とか組織論のビジネス系の読み物もたくさん書かれていて。『坂本龍馬の人間学』とか。名将に学ぶ人間学みたいな。僕は小学生の頃によく読んでいたんですけど。
園原:(笑)
市川:(小学生が)読んでどうするんだっていう話ですが、そういう作品が潮流の中心にいた気がするんですよね。
園原:時代小説と言えば、という。
市川:ここから本題なんですけど、例えば今人気の木下昌輝さんの『宇喜多の捨て嫁』とか、天野純希さんの『破天の剣』とか、たくさん売れたんですけど。この辺に代表される「ネオ歴史小説」の、今までの歴史小説との違いを独断と偏見と妄想で語っていきたいなと。
園原:これはもう、是非うかがわせてください。「ネオ」ってこれまでの時代と何が違うのかって気になっている方もたくさんいると思いますしね。
市川:はい。
園原:そもそも、歴史小説と時代小説ってあるじゃないですか。この違いって個人的には気になるポイントで。僕としては、歴史小説は史実に基づき実在の人物を中心に据えて描く小説であり、時代小説はフィクションの人物も出てきながら物語性も豊かにエンターテインメントを描いていくという認識なんですけど。
市川:ふむふむ。
園原:その辺と「ネオ時代小説」「ネオ歴史小説」のつながりってどういう……?
市川:僕も歴史小説の選考委員とかやっていると「この本どうですか?」というお話を頂くんですけど。時代物の市井の……
園原:庶民の生活を描くみたいな。
市川:そうそう。おすすめされたりするけど、違うんですよね。僕が好きなのは「血沸き肉躍る」やつです(笑) 英雄たちがはっちゃけまくる作品。
園原:活劇みたいな。
市川:その辺の線引きって確かにされていなくて、「僕が好きなのは歴史小説であって時代小説じゃないんだけどな」みたいな。時代小説を好きなのって、ご年配の方なんだと思うんですよね。
園原:そうですね。文庫の書き下ろし作品も多くて。
市川:そういう定義で言えば、僕は「ネオ『歴史』小説」って言うのが正しいと思う。
園原:そうなんですよね。「ネオ『時代』」って言うとまた捉え方が変わってきてしまう。
市川:「時代」と「歴史」はもう少し分けて販促ないしマーケティングした方がいいと常々思ってます。確かにそうだ!(笑)
園原:ちょっと気になっちゃって。
―面白いですね。市川さんが今面白いと思っているのは、ネオ歴史小説が中心。
市川:そうですね。
園原:そうすると実在の人物を。血沸き肉躍る展開が。
市川:偉人が取り扱われているところですよね。「歴史」って。「時代」は市井の、歴史に関係ないような(人たちが中心)。
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