akane
2018/09/27
akane
2018/09/27
I:他にも「これ、自由すぎるな」というくだりがあって。第2巻の142ページ。
T:はい。
I:孔明が劉表(りゅうひょう)という人の息子である劉琦(りゅうき)に、今後の身の振り方について助言するんですね。
T:人生相談みたいな。
I:その際のセリフが、「残酷な天使のように神話になればいいではありませんか。人は愛をつむぎながら歴史を作るのです。もしもふたり逢えたことに意味があるなら。だけどいつか気付くでしょう。その背中には遥か未来めざすための羽根があるのです。ほとばしる……」
はい、もうこれくらいでいいと思います(笑)
T:庵野監督もビックリ(笑)
I:はい。それくらい自由な作品なんです。
もう少し詳しく説明すると、このくだりは元々、孔明と劉琦が密談をしていてこういう話をしました、というのが三国志の元本にあって。ただ、酒見先生的には「密談をしているのに、なぜ内容がわかるんだ」と。
※三国志の元本……『三国志演義』。中国の明代に書かれた、後漢末・三国時代(魏、蜀、呉)を舞台とする時代小説・通俗歴史小説で、四大奇書の一つに数えられる。著者は定説をみず、施耐庵あるいは羅貫中の手によるものと伝えられている。
T:わからないから密談のはずですよね。
I:つまり、こういうことが行われていてもおかしくはないよね、誰も否定できないよね、それが歴史だよね、というメッセージでもあるわけです。
T:私はこういう風に喋っていたと思う、ということですね。なかなか深い話です。
I:深いです。
I:時間も差し迫っておりますので、最後に諸葛孔明に関してなんですけれども。
すごい脱線しちゃって最後に諸葛孔明の話をするという(笑)
T:本題の孔明ですからね!(笑) いよいよということで。
I:龐(ほう)徳(とく)公(こう)という、諸葛孔明が住んでいる荊州(けいしゅう)の知識人、ゴッドファーザーでいうマーロン・ブランド的な人物がいまして、劉備玄徳が孔明をスカウトしたいという話を彼にした時に、際に彼がこういう話をするんですね。1巻の480ページです。
「望みがあれば孔明をつついて差し上げてもいいぞ。彼が玄徳殿の軍師になれば玄徳殿はもう勝ちも負けもしなくなる。孔明はどんな強敵、大群が襲おうともきっちりと引き分ける策を出せる男である」。
それに対して劉備は「引き分けでは天下は治まりますまい」と返す。
これもですね、作品のキーになる部分だと思っています。要は、孫子の兵法に通ずるところがあると思うんです。
※ゴッドファーザーでいうマーロン・ブランド……コルレオーネ家の家長であるドン・ヴィトー・コルレオーネ。『ゴッドファーザー』ではマーロン・ブランドが、『ゴッドファーザー PART II』ではロバート・デ・ニーロが演じた。映画史上もっとも偉大なキャラクターとも言われる。
T:というのは?
I:孫子は「敵を知り己を知れば百戦して危うからず」という言葉が大変有名ですよね。
T:よく聞きますよね。
I:でも本当は、その前のくだりをみると「戦争は基本しちゃいけない」「なんとか外交でうまいことまとめなさい」と書いてあって。
T:戦う前の段階があるわけですね。
I:はい。これは要約しますけど、6:4とか7:3くらいで「あれ、俺もしかして負けてない?」と相手が思うくらいの勝ちがちょうどいいと。それが最良であると説いているんです。
T:程よく勝てと。
I:はい。二人の会話はまさに、そこに通ずる部分があると思うんです。
曹操(魏の王)というのは統一王朝を目指していたわけですよね。ちなみに曹操も本を出版しちゃうくらいの孫子マニアだったんですが。
T:劉備(蜀)のライバル。
I:ただ、国が一つになると、これで良かったのか? という部分もある。段々と時が経つにつれ中央集権化して政治は腐敗する。そして内乱が起きて、戦争が始まって……。
T:そうやって歴史は繰り返していく。
I:孔明は、国家のフォルムに関して「中くらいの王朝がいくつか並んで互いに切磋琢磨するくらいが健全ではないか」と思っていたのではないかと。完全に僕の妄想ですけど。
T:イメージとしてはヨーロッパの勢力均衡、複数が互いに牽制しあっている方がいいと。
I:冷戦時代や二大政党政治じゃないですけど。魏のカウンターとして蜀があると考えたのではないかなと。
T:蜀がどう勝てるかではなく、どうやって魏・呉・蜀のパワーバランスを保ち、競り合いつつもそれなりに安定した社会を築くか。
I:孔明は拮抗していて互いに緊張状態にある方が、より平和に近いのではないかと思っていた。というのが僕の考えです。
この本に書かれているように魏を7とすれば蜀を1とする戦力差がありつつも、亡くなる晩年まで北伐戦(魏との戦争)を繰り返していたのには、アドバルーン的な意味合いが強かったのではないかと。
T:あくまでも競争していくぞと。
I:そういう妄想が入り込む余地、余白があるのが諸葛孔明のすごさなんです。喧々諤々と今でも語られる人物。知力100はおかしいんじゃないか?とか。
T:100人いれば100通りの孔明像があると。
I:それを内包できるのが孔明のすごさだったのではないかと。
T:孔明は器が大きいというか懐が深いというか。
I:そこが、この作品のテーマではないかと思います。大変面白い作品ですので、ぜひぜひご覧ください。
T:非常に深い話に行き着きましたね。
というわけで、第1回は酒見賢一先生の『泣き虫弱虫諸葛孔明』でした!
I:ご静聴ありがとうございました!僕はこれから池袋のキン肉マンショップでTシャツを買ってきます!
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