今季ブレイク中のソフトバンク・栗原、DeNA・佐野に見る“代打からレギュラー”の成長モデル
お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

BW_machida

2020/08/27

「お股クラスタ」でソフトバンクファンのRyu氏(@ryu_sh9)とDeNAファンのいーづか。氏(@B_Methods)による共同執筆!
昨年まで控え中心の起用ながら、今季ブレイクし、中軸を任されるふたりの選手がいる。横浜DeNAの佐野恵太、そして福岡ソフトバンクの栗原陵矢である。このふたりは実は共通項が多く、似たような成長曲線を描いて今に至っている。今回はこのふたりを掘り下げ、どのように育成され、結果を残しているのかを考える。

 

 

昨年から非凡な才能を見せていたソフトバンク・栗原

 

栗原は昨年、代打中心の起用で打席数は僅か45に留まったが、4/13楽天戦10回表に決勝打、7/8鷹の祭典西武戦12回裏にサヨナラ犠飛、7/24ロッテ戦8回裏に勝ち越し打といずれも代打で3度も試合を決める勝負強さを発揮した。インコースの捌き方には天性の物があり、その姿はかつてのソフトバンクの主軸である松中信彦を彷彿とさせる。左投手や変則型の投手も苦にせず、適応力の高さを見せている。

 

 

開幕戦5打席に存分に詰まった「栗原らしさ」。なぜ得点圏に強いのか?

 

開幕戦の栗原は最初の3打席を見逃し三振、空振り三振、完全に崩された投ゴロで終えていた。ここまで完全にやられてしまうと、闇雲に初球から手を出したり、ボール球を振るのを嫌がってストライクを簡単に見逃したりしてもおかしくない。
しかしチャンスで迎えた4打席目はボール球を3球しっかり見極め、ストライクは2球全てにスイングをかけ、カウント3-1からのストライクを見事にレフト前へ弾いて見せた。

 

そして最終打席。10回裏2アウト3塁、サヨナラのチャンス。初球の真っ直ぐ、2球目のフォークをどちらも空振り。ここで栗原は「真っ直ぐを待ちながらフォークがきたら対応する」意識に変え、3球目のフォークをなんとかファールに。そして4球目。フォークに対応できたことで目付けを上げていた栗原は、真ん中高めに入ってきた真っ直ぐを捉えてサヨナラタイムリーを決めた。来た4球全てにスイングをかける思い切りの良さ、打席の中で考えを変えながら結果を残せる技術と柔軟さ。開幕戦のたった5打席で、栗原は早くもその能力を見せつけた。

 

投手はピンチの場面では特にストライク先行、追い込めば三振を狙いにいきたい。その際、打者にはファーストストライクからスイングをかけられる積極性、追い込まれてからの見極めやファールで逃げる技術、それによって浮いてきた変化球を仕留める力が必要である。これらを備えている栗原は現在リーグ2位の4犠飛とフライを上げる技術にも長けており、チャンスに強いのは偶然では無い。

 

栗原は捕手である点も大きな魅力だ。捕手としての守りの技術、配球センスも十分あるので、甲斐との併用も可能だろう。ファーストや外野などでも試合に出ながら今年の内にレギュラーを一気に掴み取り、将来的には3割20本、首位打者を取るような打撃を期待したい。

 

4番、そして主将。チームの核となったDeNA・佐野

 

一方で今シーズンの3割20本、首位打者が早くも現実味を帯びているのがDeNAの佐野恵太だ。
佐野も一昨年から昨年にかけて代打での出場が多く、特に昨年は終盤に出てくるセットアッパー、クローザーに対して勝負強さを発揮してきた。開幕3戦目でサヨナラタイムリー、次カードでは代打満塁ホームラン。昨年阪神で活躍し現在はMLB サンディエゴ・パドレスで活躍するピアース・ジョンソンから日本人で唯一ホームランを放ったのも佐野だった。

 

打ちにいって粘れる、そして仕留める。佐野の凄さが詰まった小川との対戦

 

佐野の凄さが詰まった素晴らしい打席があったので紹介する。8月8日のヤクルト戦、相手は今季ノーヒットノーランも達成した好投手の小川だ。
5回表2死2塁のチャンス。佐野はフルカウントから内角・外角の真っ直ぐ、低めのチェンジアップ、高めのスライダー、バックドア・インローのカットを全てファールで粘り、最後に真ん中低めに入ってきたスライダーを拾ってホームラン。ありとあらゆる球種に対応し、粘りながら最後は逃さず仕留める。四球にしない小川の粘りを、佐野の決定力が上回って見せた。
繰り返しになるが、ファーストストライクからスイングをかけられる積極性、追い込まれてからの見極めやファールで逃げる技術、それによって浮いてきた変化球を仕留める力。栗原同様、佐野もこの能力がしっかりと磨かれた素晴らしい選手であり、今や4番で大丈夫かという声は全く聞かれない。佐野はコンタクトセンスが光り、打率も首位打者を争うほど高い。また、勝負を決めに行く力もあり打点もリーグで上位だ。こうした数字は佐野の能力の高さを示している。

 

 

 

高い対応力を持ち、勝負強さのあるバランサータイプを作る”代打からレギュラー”

 

DeNAのラミレス監督は佐野について、「プレッシャーのかかる終盤の代打を経験したからこそ、今得点圏で打てる。”代打からレギュラー”は成功する確率が高い」と話していた。佐野、そして栗原は正にその成長曲線に乗った2人だと言える。

 

終盤用の代打として試合に出ると、150キロを超える強い真っ直ぐにフォークなどの決め球を持つセットアッパーやクローザーとの対戦になる。なおかつ、佐野や栗原が起用されるチャンスの場面では、四球を選ぶよりも自分で勝負を決めなければならない。
試合の行方を左右する場面での重圧との戦い、ファーストストライクから振っていけるだけの積極性、強い真っ直ぐを潰す力、コンタクトセンス。非凡な才能を持っていたふたりだからこそ、代打から経験していくことでアプローチが磨かれ、その能力を引き出すことができた。1打席に懸ける集中力、勝負強さ、様々なタイプの投手への対応力や簡単に三振しないコンタクト能力などを身につけ、佐野と栗原はいわゆるバランサータイプ、楔型という打線の中軸として活躍できる選手へと成長したのだ。コンタクトにセンスのある選手をこのタイプに育て上げるために、あえて終盤用の代打などから経験させる育成法は有効だろう。

 

昨年、栗原は代打要員のままだったのに対し佐野はシーズン後半に4番を任されるなど代打からレギュラーへの移行を徐々に始めていた。その分、現在の成績に少し差があるようにも見える。ただ本質的には栗原も、現在の佐野に近い成績を残す能力があるだろう。これからも佐野、栗原の活躍から目が離せない。

お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

お股ニキ(@omatacom)(おまたにき)

野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、様々なデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ、25,000人以上のスポーツ好きにフォローされる人気アカウントとなる。 プロ選手にアドバイスすることもあり、中でもTwitterで知り合ったダルビッシュ有選手に教えた魔球「お股ツーシーム」は多くのスポーツ紙やヤフーニュースなどで取り上げられ、大きな話題となった。初の著書『セイバーメトリクスの落とし穴』がバカ売れ中。大のサッカー好きでもある。
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セイバーメトリクスの落とし穴マネー・ボールを超える野球論

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