良家の子弟の「ガレージ」サウンドがロックを延命させた【第46回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

56位
『イズ・ディス・イット』ザ・ストロークス(2001年/RCA・Rough Trade/米)

Genre: Garage Rock Revival, Indie Rock
Is This It-The Strokes (2001) RCA•Rough Trade, US
(RS 199 / NME 4) 302 + 497 = 799

 

 

Tracks:
M1: Is This It, M2: The Modern Age, M3: Soma, M4: Barely Legal, M5: Someday, M6: Alone, Together, M7: Last Nite, M8: Hard to Explain, M9: New York City Cops, M10: Trying Your Luck, M11: Take It or Leave It
※アメリカ盤のみ、M9「New York City Cops」が「When It Started」に差し替えられていた

 

例によって幾度目かの存立の危機を迎えていた「ロックらしいロック音楽」のシーンに彗星のようにあらわれた、ニューヨーク出身のグッド・ルッキンな若者集団がザ・ストロークスだった。斯界に衝撃を呼んだ、彼らのデビュー作がこれだ。

 

彼らの音楽は「ガレージ・ロック・リヴァイヴァル」と呼ばれた。それはある種、サンプリングされて整頓され、「脱臭」されたガレージ・ロック、だったかもしれない(たとえば、ストゥージズなどと比べてみるとその差は歴然だ)。しかし、それが若い層に的確にアピールした。本国アメリカでも悪くはなかったが、イギリスでは大ヒットとなった。ブルース・ロックのリヴァイヴァリストであり、やはりイギリスで高い人気を誇るホワイト・ストライプスの轍を追うようにして、「リヴァイヴァリスト」の新たな玉座についたのが彼らだった。この人気が、日本にも波及した。

 

ヴォーカルにして、本作すべての作詞作曲者でもあるジュリアン・カサブランカスの出自も、米英では高い注目を集めた。富豪である彼の父親は、スーパーモデル・ブームを牽引した超一流のモデル事務所〈エリート・モデル・マネジメント〉の創設者で、母親は元ミス・デンマークのモデルだったからだ。ジュリアンの学友を中心とした集団がストロークスだったから、良家の子弟が集まって「ガレージ・ロック」をやろうとしたわけだ。この点に鼻白む者も、アメリカのコアなインディー・ファンには少なくなかった。逆にイギリスでは、まさにこの点が憧憬の対象ともなった。折しも当時は、パリス・ヒルトンがあらゆるメディアから注目を集め始めた時期でもあった。このあとも長く続く「セレブ」ブームの最初の波に、彼らも乗った。

 

そこには「夢」があった。レディオヘッドがリードしていた当時のロック・シーンには、言うなればボーイ・バンドのように「女の子の声援を集めそうな」華がある若手は皆無だった。ただストロークスだけが、まばゆい光を放っていた。それは人気曲のM7を聴けばわかる。恋の鞘当てが、まるで60年代初期のティーン向け映画のようなシンプルさで描かれる。パーカッシヴかつ爽快なギター・カッティングが青春のシーンを素描する。この曲と、続くM8、疾走感のロックンロールが本作の山場だ。

 

この華やかなデビュー劇が、小さくとも確実なる「ロックの復権」をうながした。アークティック・モンキーズもストロークスから受けた影響について述べている。

 

次回は55位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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