噂の角打ちは酒のワンダーランドだった
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

進化系の角打ちが新宿に?

 

仕事がら、酒好きの友人知人が、「新しくできたあの店、おもしろかったよ!」なんて情報をくれることがあります。同じ情報を3人くらいの人から聞くようなことになると、これはもう、行ってみないわけにはいかないぞという気持ちになってきます。
先日、そんな流れで飲みにいってみたのが、新宿西口「小田急ハルク」内にある、ビックカメラの酒販コーナー。そこに最近、気軽に立ち寄れる角打ちコーナーができたそうなんですよね。
角打ち、何年か前から流行りまくりですからね。そりゃあ大企業だって黙っちゃいない。さて、実際どんなとこなのかな~と。

 

 

スタイリッシュな試飲スペース

 

とはいえ、メモ帳とペンを手に、調査隊のような気概でやってきたわけではありません。新宿に用事があって、ちょうど30分くらい空き時間があったので、「そういえば」と思い出して寄ってみた程度。つまり、前情報はほぼなし。とにかく、小田急ハルクの2階にあるということだけは覚えていたので、行ってみることにします。
実際2階の酒販コーナーに着いてみて圧倒されましたね。ものすごい規模で展開されるフロアの、酒とつまみの物量! ビールに缶チューハイに焼酎、日本酒、ワイン他。現在の日本で一般的に手に入るお酒がすべて置かれているんじゃないかという充実ぶりです。以前はカメラコーナーだった場所を今年リニューアルしたんだそうですが、時代の流れを感じますねぇ。
おつまみも、缶詰や乾き物系を中心に、とても店内を一周しただけじゃ見きれないくらいの種類が並んでいます。これは楽しい! 1日いられる! が、今日は時間もそんなにないので、パッと目に入った「トムヤムナッツ」というのを手に取り、中央にどーんと展開されている角打ちコーナーへ向かってみることに。

 

半円状の白いピカピカのカウンターの周りに、モダンなデザインの椅子がぐるり。中にはバーテンダーのような佇まいの販売員さん。想像していたよりもずっと小洒落た空間で、ちょっと緊張してしまうほどです。システムがわからないのでとりあえず椅子に座ってみると、店員さんがメニュー表を持ってきてくれました。
先頭はジャパニーズウイスキーのページ。「シングルモルト山崎」(250円)、「シングルモルト白州」(250円)、「響ジャパニーズハーモニー」(300円)、「響ブレンダーズチョイス」(550円)と続き、注意書きには「各銘柄お一人様1杯まで」「1杯30ml程度になります」とあります。それから、「響30年+山崎12年ミニチュアボトル」(10000円)なんていうメニューも。
なるほど、酒好きの友達からすれば最も近い表現は「角打ち」となるんでしょうが、ここはあくまで酒販店の試飲スペース。有料であれこれ味見できて、気に入ったお酒があればボトルで買って帰ることができる。そういう意図のお店のようですね。海外のウイスキーやワイン、焼酎、日本酒のページも、安いものは100円~1杯1000円といった高級品まで、幅広いラインナップがずらりと並び、決して手軽に酔っ払うための場所ではなく、本当にお酒が好きな人が集う社交場のような雰囲気。実際客層もすごく上品で、ロマンスグレーの紳士がウイスキーを飲みながら店員さんと酒談義に花を咲かせていたり、イケてるキャップ系の女子がひとりでやってきて、すっと銘柄を伝えてグラスワインを楽しんでいたりします。
が、酒が飲める場所=酒場であるというのもまた真理。僕は僕なりのつつまし酒を楽しませてもらいましょう。

 

 

昼からビール→ウイスキー→日本酒の至福

 

メニューを吟味していくと、オランダのビール「ハイネケン」の小瓶が260円とあります。しかも0℃以下に冷やしたエキストラコールドとのこと。よし、一杯目はこれ!
支払いは都度払いなのですが、目の前のカゴに千円札を突っ込んでおけばいい、というわけではなく、毎回バーコードを読み込んでお会計をし、ビックポイントカードを持っていればポイントも貯まってしまうのがおもしろいところ。トムヤムナッツ192円と合わせて、472円。

 

ピカピカの店内が初夏の日差しを反射し、明るすぎるくらいのなか、キンキンに冷えたビール。すっきりとした味わいが驚くほどスルスルと喉を通り抜け、体に清涼感が広がっていきます。た、たまんね~……。
すかさずトムヤムナッツをポリリ。これ、トムヤムクンの味をまぶしたカシューナッツなんですが、味が濃くて、パクチーやレモングラスの風味がきちんと効いていて、めっちゃくちゃビールに合う! フィーリング一発で選んだおつまみながら、いい出会いだったな~。
エスニックなナッツと爽やかなビールのハーモニーを楽しむ時間はあっという間に過ぎてしまい、さて、次は何を頼もうか。

 

せっかくの機会なので、普段飲めないようないいウイスキーでも飲んでみるか。昨年発売されたという飲食店限定の「響ブレンダーズチョイス」にしてみましょう。1杯550円もする高級品ですが、30mlといえばシングルの量。バーで頼めばその倍とか3倍の値段でもおかしくはありません。僕、お酒はなんでも好きなんですが、純粋に「味がうまい」と感じるのって、圧倒的にウイスキーなんですよね。いや~楽しみ。

 

すぐにストレートの響と、チェイサーが到着。大切に大切に、ちびりと一口含んでみると……うわ、これは、至福すぎる……。ほんのわずかな質量に対しての、この圧倒的な情報量。甘み、苦味、酸味、爽やかな香りなどなどの要素が織り成す、良いウイスキーならではの重厚さ。それをこんな明るい場所で飲んでいるというちぐはぐさもなんだか楽しく、いや、最高に楽しいっすわ、ここ。

 

最後の一杯は、なんと唯一の「無料」試飲メニュー。日本酒「大吟醸 我山荘」。ビック酒販限定で販売されている栃木県のお酒だそうで、無料といわれると、意地汚い僕としては味わってみないと気がすみません。するとこれが、すっきりと飲みやすくも、ちゃんと香りと旨味のある美味しいお酒。軽~く様子を見にきてみたつもりが、ビール→ウイスキー→日本酒と堪能してしまってもう大満足。これで締めておよそ1000円ってんだから、絶対にまた来ちゃいますよね。
おっと、ただしここはあくまで試飲スペース。次回はもう少し時間に余裕を持ってやってきて、帰りに気に入ったお酒の1本も買って帰りますので!

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を