「働かないアリ」が社会からどうやって排除されているか
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アリの社会も協力関係でできています。女王アリが生殖を担当し、働きアリが子育てと餌の採集や巣の防御などを分担し、みんなで協力して一族全体として生存競争を勝ち抜こうとしています。このアリの社会の裏切り行為としては、どんなものがあるでしょうか?

 

ひとつには、女王ではない働きアリが卵を産むというという行為です。アリの社会では本来働きアリは卵を産めず、自分の直接の子孫を残すことが許されていません。しかし、もしなんらかの間違いで卵を産むような働きアリが生まれると、それはその働きアリにとって大きなチャンスとなります。女王の子供(自分の兄弟にあたる)ではなく、自分自身の子を増やすことができるからです。さらに女王の子に混ぜてしまえば、一族みんなのサポートも得られます。一族の協力を搾取しながら、自分の子孫を増やすことができるようになるのです。働きアリにとっては魅力的なことでしょう。

 

しかし、もちろんこれはアリの社会では、とんでもない裏切り行為です。こんなことを許せば一族の分業と協力が崩壊してしまいますので、なんとか防がないといけません。

 

他のタイプの裏切り者として、人間社会と同じような怠け者もいます。アリの社会では働きアリの1匹くらいサボって巣の中で休んでいても、他のアリたちが働いているかぎり、なんの問題もありません。アリにとっても働くことはきっとつらいことなので、サボるアリが出現しても仕方ありません。巣の中には他のアリがとってきた餌がありますので、怠け者のアリでも生きていくことができます。むしろ、ずっと巣の中にいるので安全で死ににくく、他のアリよりも長生きすることができるでしょう。したがって働きアリが怠けることは、そのアリ本人にとっては得になります。

 

ただ、怠けるようになったアリが増えれば増えるほど、その一族全体の競争力が下がっていき、最終的には他のアリの一族との生存競争に負けてしまうでしょう。琉球大学の辻和希博士の調査によると、サボるアリが増えたアミメアリのコロニーは小さくなり、次世代の繁殖効率が低下することがわかっています。したがって、怠け者のアリもまた抑えておかないといけません。 アリ、ハチなどの社会性昆虫はこうした裏切り者をどうやって防いでいるのでしょうか? 働きアリや働きバチが勝手に卵を産んでしまうという裏切りを防ぐために、アリやハチの社会では、女王が出すフェロモンによって働きアリ・ハチの排卵を抑えています。これによって、女王が健在なうちは働きアリ・ハチは卵を産みません。

 

キイロヒメアリの場合はもっと徹底しています。働きアリは発生時に操作されていて、もはや卵巣を持っていません。こんなことをされてしまえば、どう頑張っても卵を産むことは不可能です。ミツバチの場合は、まれに働きバチが卵を産むことがあるらしいですが、その場合は他の働きバチがすぐに卵を食べてしまいます。裏切り者が生まれないように働きバチの間で相互監視までされています。こうした生理的なしくみと相互監視の二重のシステムにより、卵を産むという裏切り行為は抑えられています。

 

では、怠け者タイプの裏切りはどのように防いでいるのでしょうか? ちょっと前にベストセラーとなった、長谷川英祐博士の著書『働かないアリに意義がある』で有名になったように、働きアリの中には2割ほど働かないものが含まれています。このアリたちは、他のアリが餌をとりに出かけたり、卵の世話をしているあいだも働かずに、巣の中をうろうろしています。一生のうち一度も働かない個体もいるようです。

 

この者たちは働きたくなくて働いていないわけではなく、緊急事態に対応するための待機要員だといいます。アリの社会では、仕事と人員を割り振る司令塔がいません。それぞれの働きアリが自分で判断して仕事をしています。そういう司令塔がいない社会では、全員が全力で働いてしまっては、どこかで全員が疲れて動けなくなってしまいます。そんなときでも毎日の卵や子供の世話をしないといけませんし、そんなときを外敵に狙われたらイチコロです。普段は怠けているアリは実は裏切り者ではなく、いざというときに備えている切り札のようです。

 

なかには緊急事態であっても働かない本当の裏切り者もいるようです。先に述べたアミメアリのコロニーでサボって働かないアリたちです。このアリは普通の働きアリにはない単眼を持っているという特徴があり、ほとんど働かずに卵を産み続けます。

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協力と裏切りの生命進化史

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