人も土も見た目が8割? 肥沃でいい土とは一体何か
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食材の産地を訪ねるテレビ番組で、農家のおじさんが「この土はいい」という時、必ずといっていいほど、手にとった土をこねる。あの手で瞬時に化学分析をしているわけではなく、色と手触りの違いをたよりに土の肥沃さを判断しているのだ。土の色や手触りは、肥沃な土とどう関わるのだろうか。

 

風景画の背景の土を塗るとき、日本人なら「黒色」「こげ茶色~黄土色」「灰色」を思い浮かべる人が多いだろう。黒色と答える人は、北は北海道、東北から関東、九州まで日本全国にいる。赤色を選ぶ人は、沖縄や小笠原諸島に多い。世界を見渡せば、アフリカ中央部の子供たちは赤色の絵の具を手にとる。中国の黄土高原の子供たちは黄色、スウェーデンの子供たちは白色の絵の具を選ぶ。

 

私たちの潜在意識には、確かに土の記憶が存在する。

 

色は、土の性質をつかむ上で重要な手がかりだ。土の構成成分のうち、腐植は黒色、砂は白色、粘土は黄色や赤色である。土の色は、腐植、砂、粘土の量のバランス、粘土の種類によって決まる。

 

腐植の多い日本の火山灰土壌は黒くなりやすい。腐植は光を吸収する炭素の二重結合(主に芳香族化合物)を多く含むためだ。炭素の二重結合を分解するには多くのエネルギーを要するにもかかわらずおいしくもないため、微生物たちに敬遠され、土壌中に残存しやすい。甲子園の高校球児の白いユニフォームが黒く染まる理由である。球児たちの聖地・甲子園の土は、鹿児島県や鳥取県大山の黒土に砂を混ぜてつくられている。もちろん、持ち帰る土には、白球の記憶も入り交じっている。

 

茶褐色から黄土色を想像するのは、土に腐植と粘土が多いからだ。ジメジメした日本では、赤色よりも黄土色の鉄さび粘土(ゲータイトやフェリハイドライトといった酸化鉄鉱物)が多い。ネバネバした手触りだ。沖縄、小笠原諸島、東南アジアやアフリカなどの熱帯・亜熱帯地域の土が赤色になるのは、火星と同じくヘマタイトと呼ばれる鉄さびが多いためだ。フライパンで焼いたり乾燥させると鉄さびは赤くなる。アフリカのライオンと聞けば、赤土の大地で乾いた風にたてがみをなびかせた姿を想像する理由である。さだまさしの名曲「風に立つライオン」の影響もあるかもしれない。

 

黄土高原やスウェーデンの土が黄色や白色になる理由は、腐植や粘土が少ないためだ。とくに鉄が少ない。砂粒が多いと、土は白く見える。ザラザラした手触りだ。

 

私たちが知っている土の色の違いは、その素材の違いを反映している。色と手触りをもとに、フカフカした黒い土を「この土はいい」ということもあるし、真っ白な砂漠の土や赤土をとって「不毛」だとか「貧栄養」だと断じることもある。見た目の直観は八割がた正しい。

 

土の性質を決めるものは、腐植と粘土の量、粘土鉱物の種類である。ネバネバした土をとって「肥沃だ」と判断する根拠には、粘土や腐植の水持ちのよさ(保水力)と養分を保持する能力がある。

 

 

以上、『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)を一部改変して掲載しました。

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