横浜DeNAが大炎上して失敗した「オープナー」戦術の難しさ
お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

 

 

◆オープナー導入の背景にある「先発投手のリリーフ化」

 

今回は、昨年からMLBで本格的に導入された継投の戦術「オープナー」について書いてみたい。

 

今季はNPBでも、日本流にアレンジした「ショートスターター」を日本ハムの栗山監督が実行し、日曜日には横浜のラミレス監督が本来はリリーフ投手である国吉を先発として起用した。

 

「オープナー」とは初回に力のあるリリーフ投手を先発させて上位打線を封じ、2回や3回から本来の先発投手が投げるという戦術だ。以前から理論的には有効だと提唱されていたところ、タンパベイ・レイズが実際に導入し、一定の成果を上げた。年俸の安いリリーフ投手を活用する必要のある、資金力の乏しい球団により適合する考え方でもある。

 

中4~6日で登板する先発投手は、当然ながら登板は数日ぶりである。また、長いイニングを投げなくてはならない。そのためペース配分をして感覚を掴むまでは手探りで投げ始めるので、ほとんどの投手は初回が最も不安定で失点率が高い。昨今はそうした先発投手の不安定な立ち上がりに付けこんで大量得点を奪い、序盤で試合を決めてしまおうとする攻撃が主流になっている。「2番強打者論」で分厚い上位打線を組む背景には、そうした狙いがあるとも言える。

 

また、投手・打者ともにレベルや最大出力が上昇している影響で投手の平均球速は上がり続けているため、力を抜いて投げられる場面が減っている。投球数が100球に近づくと疲労でスピードや球威が落ち、打者側も3巡目ともなれば球筋に慣れてくるため、打たれる投手が増えてきている。本当の超一級品、本質的先発投手以外はなかなか長いイニングを投げられなくなっているのが現状だ。

 

一方で、100マイルの速球と90マイルのスラッターを駆使して、短いイニングなら完璧に、相手をほぼ三振に仕留めてしまうようなリリーフ投手が増えてきている。

 

こうした先発投手の「リリーフ化」と「投手の平準化」の進む現状を背景に、超一級品投手は多く揃えられないものの、圧倒的な球威がある若手投手を複数人育成・用意できる新興球団のタンパベイ・レイズが実行した戦術がオープナーである(ちなみに、レイズはこうした斬新な戦術を多用するアイデアの宝庫として知られる)。

 

◆MLBのトレンドを先導したタンパベイ・レイズ

 

レイズはオープナー戦術を採用するにあたって、まずは経験豊富なリリーフ投手のセルヒオ・ロモを先発させて様子を見た。ロモは球速はこそ速くないものの長いキャリアに基づく技術を持ち、普段とは違う先発のマウンドでも相手を確実に抑え、オープナー戦術の実行可能性を示した。

 

レイズはその後、100マイル近い速球や90マイル前後のスラッター、スプリットを持つ「ゴリ押し」タイプの若いパワーピッチャーであるスタネック、ディエゴ・カスティーヨらを先発させ、左の技巧派投手ヤーブローらに繋いでいくという、オープナー戦術のある程度の形を作り上げた。それもあって昨年は90勝72敗と躍進し、今季もまだ開幕直後とはいえメジャー2位のチーム防御率2.83を記録して、昨年世界一のレッドソックスや名門ヤンキースを抑えてア・リーグ東地区の首位に立っている。今後はいかに投手の負担を抑えながら長期戦を戦い抜いていくかに注目したい。

 

NPBでもMLBと同様の流れが来ており、投手の平均球速は上がる一方である。今季は千賀や今永、国吉らを筆頭に更に急激に出力の高まった投手が多いように感じられる。

 

打者もフィジカルやパワーも向上し、(ボールが少し飛ぶようになったこともあるが)長打を狙っていくスタイルが定着してきた。開幕から巨人の坂本勇人や丸佳浩、ヤクルトの青木やソフトバンクの今宮健太などが2番打者として強打ぶりを発揮しており、投手が長いイニングを投げるのは容易でなくなってきている。

 

そうした中で、やはりと言うべきか最先端のトレンドやデータ野球に敏感な日本ハム・栗山監督と横浜のラミレス監督がオープナー戦術を導入している。

 

しかし、MLBとNPBでは環境や選手の能力もやや異なるため、完全に同じ形で適用することは出来ず、日本流にアレンジする必要がある。NPBでは先ほどあげたレイズのカスティーヨ、スタネックといったクラスの投手を集めることは難しい(というより、MLB全体でもあれ程の怪物投手を複数揃えられるチームはほとんど存在しない。どれほどの凄いのかは言葉で説明するより映像で見て欲しい。打者はほぼ三振して終わりである)。

 

◆NPBにはまだ試行錯誤が必要

 

NPBでオープナー戦術を用いる場合にはまず、先発として3巡目には捕まるが2巡目くらいまでは試合を作れる投手を複数用意し、3イニングを目処として繋いでいく形が考えられる。日本ハムでは加藤や斎藤佑樹、金子弌大らをそのような形で実験的に起用している。3~4イニングずつ投げる投手を複数用意して週に2回程度登板していく形で、例えば巨人も大竹や吉川光夫、野上らをこのように繋いでいくことは十分考えられるだろう。(ただ個人的には、金子弌大はショートスターターで起用しなくていいと思う。本質的先発投手だし、2巡目で限界のタイプでもない。)

 

一方、横浜は日曜日の広島戦で国吉を先発させた。

 

今季の国吉は最速161キロをマークするほど出力が上がって成長を見せている。レイズのカスティーヨやスタネックのようにパワーピッチャーを先発させて、球威で圧倒して抑え込むことを狙った起用だったのだろう。理論的には正しいし、オープナー戦術の答えがある程度出てきた中での最適な選択であった。

 

しかし、国吉は144キロ程度(最速でも150キロ)の球速にとどまり、走者を出してからクイックなどの乱れもあって初回に4失点。オープナーの役割を果たすことはできなかった。オープナー戦術のリスク、負の側面が出てしまったと言える。上位打線を力のある投手で抑え込みんでから本来の先発が登板する形を作れれば良いが、何らかの形で初回に失敗してしまった場合には試合が決まってしまい、そこから敗戦処理のような形で本来の先発投手を注ぎ込むことになってしまう。

 

国吉は先発の経験もあるとはいえ、オープナーをやるのは初めてだし、おそらくいつもと違う形ゆえに思ったような投球ができなかったのだろう。先発としてペース配分をしようとしたのではなく、本来のオープナーの役割を認識していたはずだが、やはり慣れない部分や手探りの部分はあったと思われる。これが野球の難しさである。理論上は正しくても人間がやることだから、いつもと違うリズムや状況、精神状態で本来の161キロという出力は発揮できなかったのだろう。今後、オープナーがうまく投げられてもその後に出てくる本来の先発投手の方が、2回や3回からの登板でリズムが狂うパターンもあり得る。

 

とはいえ、1度うまくいかなったくらいで「オープナーはやめるべき」と短絡的に考えるのもまた浅はかだ。中6日で月曜日が移動日となるNPBにおいて、日曜日にオープナーやブルペンデー的な投手起用をすることには一定の合理性がある。

 

レイズも経験豊富なロモ(横浜で例えるなら引退した加賀のようなイメージの投手)で試した後、圧倒的なパワーピッチを実践できる投手が先発する形を試行錯誤で作り上げてきた。

 

横浜も国吉が経験を活かして上手く投げられるようになるか、エスコバーや三嶋らをオープナーとして(代打を出せる)1打席目が来るまで投げてもらう起用法なども考えられる。単にトレンドを追うのではなく、日本流のアレンジを加え、選手や首脳陣も経験やノウハウを積んで最適な形を模索していくのが「考える野球」だ。

 

もちろん、日本にオープナー戦術はフィットしなかったという結論を得られたとしたら、それはそれで成果である。昔から「ローテの谷間」では同様の起用がされてきたと言ってもよいので、あまり「オープナー」という名前や型式に囚われずに捉えるべきだろう。当然、エース級が先発する日はオープナーを採用する必要はまったくない。

 

「ローテの谷間」でいかに勝利を拾い、かつ投手の負担を減らしていくかを考え抜けば、結果として最適なバランスが見えてくることだろう。

 

今週の用語
「オープナー」→P235
「アレックス・ラミレス」→P209
「栗山英樹」→P298
「パワーピッチャー」→P41
気になる人は『セイバーメトリクスの落とし穴』で要チェック!

お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

お股ニキ(@omatacom)(おまたにき)

野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、様々なデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ、25,000人以上のスポーツ好きにフォローされる人気アカウントとなる。 プロ選手にアドバイスすることもあり、中でもTwitterで知り合ったダルビッシュ有選手に教えた魔球「お股ツーシーム」は多くのスポーツ紙やヤフーニュースなどで取り上げられ、大きな話題となった。初の著書『セイバーメトリクスの落とし穴』がバカ売れ中。大のサッカー好きでもある。
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を